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012.カシューナッツ調査レポート
2026-07-20
カシューナッツの加工の手間を知ったので纏め。
概要
カシューナッツはウルシ科の植物 Anacardium occidentale の種子である。
原産地はブラジルとされるが、現在はアフリカ、西アフリカ諸国、インド、ベトナムなどの熱帯・亜熱帯地域で広く栽培されている。
ナッツ類として流通しているが、植物学的には果実の内部に含まれる種子であり、特徴的な構造を持つ。
カシューナッツとは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 学名 | Anacardium occidentale |
| 界 | 植物界 |
| 科 | ウルシ科 |
| 属 | Anacardium属 |
| 種 | Anacardium occidentale |
特徴
- 常緑高木
- 熱帯~亜熱帯地域で生育
- 高温・日照を好む
- 比較的やせた土地でも栽培可能
外見と構造
カシュー樹の全体像
カシュー樹は枝を大きく広げる樹形を持つ。
葉は厚く楕円形で、成熟すると赤色または黄色のカシューアップルを実らせる。
カシューアップルとカシューナッツ
カシューアップルは果実のように見えるが、植物学的には果柄が肥大化した「偽果」である。
食する部位であるカシューナッツは、その先端に付く腎臓形の殻の中に存在している。
この構造は他のナッツ類にはあまり見られない特徴である。

栄養価
主な栄養成分は以下の通りである。
| 成分 | 含有量(100gあたり) |
|---|---|
| エネルギー | 約553 kcal |
| たんぱく質 | 約18.2 g |
| 脂質 | 約43.8 g |
| 炭水化物 | 約30.2 g |
| 食物繊維 | 約3.3 g |
| マグネシウム | 約292 mg |
| リン | 約593 mg |
| カリウム | 約660 mg |
| 鉄 | 約6.7 mg |
| 亜鉛 | 約5.8 mg |
| 銅 | 約2.2 mg |
| ビタミンB1 | 約0.42 mg |
| ビタミンE | 約0.9 mg |
引用:USDA FoodData Central
不飽和脂肪酸、マグネシウムなどのミネラルを豊富に含む。特に銅の含有量が多く、鉄の利用を助けるほか、赤血球の形成やエネルギー代謝に関与する栄養価の高い食品である。
カシューナッツは栄養価の高い食品である一方、脂質を多く含むためエネルギー量も高い。健康維持のためには、適量を摂取することが望ましい。
栽培地域
主な生産地域
| 地域 | 主な生産国 |
|---|---|
| 西アフリカ | コートジボワール、ナイジェリア、ベナン |
| 東アフリカ | タンザニア、モザンビーク |
| アジア | インド、ベトナム |
| 南米 | ブラジル |
栽培条件
- 気温が高い
- 長時間の日照
- 排水性の良い土壌
- 比較的乾燥した環境
カシューナッツの加工
なぜ加工が必要なのか
殻には刺激性を持つ化学成分が含まれている。
そのため収穫後すぐには食べることができず、成分を除去する加工が必要である。
殻に含まれるCNSLの主成分はアナカルディック酸(約80%)。ウルシ科に特徴的なウルシオールと構造が近縁であり、接触皮膚炎・毒性肝炎を引き起こす。
| 成分 | 割合 |
|---|---|
| アナカルディック酸 | 約80.9% |
| カルドール | 10–15% |
| その他メチル誘導体 | 微量 |
基本的な加工工程
1.収穫
- 樹上で熟した果実が自然に落下してから地上で拾い集める。樹から直接もいではいけない。放置すると品質低下が起こるので短期間のサイクルで集める必要がある。
事前に木の下の雑草を刈り取り、落ちた果実(偽果)を見つけ易くしておく必要もある。 - 収穫後に偽果からナッツ部分を取り外す。
ナイロン糸または鋭利なナイフで、カシューアップルと種子を分離する。きれいに切り離さないと種子の品質が落ちる。
カシューアップルは種子の8〜10倍の重量。ナッツ1kgにつき8〜10kgのアップルを処理する必要がある。 - 切り離し後はナッツの水分を減らすために、コンクリート床、乾燥マット、またはシートの上に置いて日陰で3〜4日間天日乾燥。
乾燥中は頻繁に動かして均一に乾かす必要がある。金属面に置いたり直射日光を当てると品質劣化の原因になる。
上記は全て手作業が基本。
出典:FAO『Small-scale Cashew Nut Processing』
2.蒸煮・加熱
蒸煮は殻を柔らかくしCNSLを減少させるために行う。結果、殻を処理し易くなる。
蒸し上げた殻はロースト殻よりも硬く、手作業での割断により大きな力を要する。
殻割り
種子を取り出す。
- 手作業による殻割りは「極めて退屈で単調な反復作業」
- 主に女性労働者が終日殻割りと薄皮剥きを行っている
- 1日10時間以上労働、夏季(5–8月)は換気のない環境で作業
- 殻は硬く(生殻で切断強度36.4±5.8 kg)て中の種子(カーネル)は柔らかい。殻を割る力とカーネルを傷つけない精度が要求され機械化が困難
健康被害がある。
- 9時間作業後、握力が左右とも23–33%低下(筋疲労)
- 作業姿勢評価(RULA/REBAスコア)で6点以上(高リスク)、20%以上の労働者が11点(極めて高リスク)
- 背痛、膝痛、関節痛、頸部痛等の筋骨格系障害が多発
- CNSLによる皮膚炎のリスクが常時存在
- 心血管ストレス指数は自動車組立工の作業者より高い
出典:Manual Shelling of Preconditioned Cashew Nut
ロースト、CNSL抽出、殻割りは機械化されている一方、「原材料の清掃、サイズ分け、カーネルの等級分けは依然として労働集約的な手作業」になっている。
出典:FAO『Small-scale Cashew Nut Processing』
乾燥
品質を安定化する。
殻割り後のカーネルは水分9.4~12%を含み、これを3.5~4.9%まで下げる必要がある。
乾燥が不十分だとカビや変質の原因になる一方、過乾燥ではカーネルが脆くなり割れやすくなる。温度と時間の管理が品質を左右する。
薄皮除去
表面の薄皮(テスタ)を除去する。
手作業の殻割りと同様、薄皮(テスタ)剥きも主に女性労働者による終日の手作業で行われ、殻割りと同等の「中程度重労働から重労働」になる。
選別・包装
ナッツを大きさや品質ごとに分類して、出荷用に包装する.
カシューナッツは脂質約44%と高脂肪のため、酸化による変敗(ランシッド化)が主な品質劣化要因。これを防ぐため「密閉ポリ袋(sealed polythene bags)」と「乾燥条件」が必要。
包装自体は機械化が進んでいるが、その前段階の等級分け(手作業)が必要で、包装工程の「手間」は、包装そのものより包装の前段の等級分けにある。
世界のサプライチェーン
生産
多くの原料はアフリカやアジアで生産される。
特に西アフリカ地域は世界有数の生産地となっている。
FAOSTATではカシューナッツ(殻付き)の生産統計が2024年まで公開されている。
生産量・生産国ランキングは変動するため、最新の数値はFAOSTATを参照するとよい。
Agricultural production statistics 2010–2024
加工
収穫された原料は殻付きのまま輸出される場合がある。
加工拠点として特に重要なのは以下の国である。
- ベトナム
- インド
人件費、加工技術、インフラなどの理由からこれらの国では大規模な加工工場が存在し、輸出向け製品の製造が行われている。
消費
主な消費地域は以下の通り。
- 北米
- 欧州
- 日本
- 中国
- 韓国
- 中東地域
副産物の利用
カシューアップル
ナッツ以外の部分である。
利用例
- ジュース
- ジャム
- 発酵飲料
- 飼料
CNSL(Cashew Nut Shell Liquid)
殻から抽出される油状物質である。
利用例
- 塗料
- 接着剤
- 樹脂
- 摩擦材
テスタ(薄皮)
ナッツ表面の茶色い皮である。
利用例
- タンニン原料
- 飼料
- バイオマス資源
まとめ
カシューナッツは特徴的な果実構造を持つ熱帯作物である。またカシューナッツは単なるナッツ類ではなく、栽培・加工・流通が国際的に分業化された代表的な農産物である。原産地で収穫された実は、加工技術や労働力が集積した国で殻むき・選別・包装が行われ、その後世界各国へ輸出される。このようなサプライチェーンは、現代のグローバル食品産業を理解する上でも興味深い事例となっている。
現在は、
- アフリカで生産
- インド・ベトナムで加工
- 欧米や東アジアで消費
という国際的なサプライチェーンが形成されている。
また、ナッツだけでなく、
- カシューアップル
- CNSL
- テスタ
などの副産物も利用されており、食品産業だけでなく化学工業でも重要な作物となっている。




